【薬剤師監修】抜毛症とは?症状や原因、治療法、接し方のポイントを解説
薄毛にはさまざまなタイプがあるのですが、抜毛症(ばつもうしょう)も薄毛を引き起こす疾患の一つといえます。
抜毛症は女性に多いとされますが、男性も気をつけなければなりません。
本記事では薬剤師監修のもと、以下の点を解説します。
- 抜毛症の症状の特徴や発症しやすい人
- 抜毛症になる原因
- 抜毛症への対策と治療方法
- 抜毛症の人との接し方のポイント
最後まで読むことで抜毛症に対しての理解が深まり、「具体的にどう対処すればいいか」がわかります。
この記事の監修者
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北海道大学大学院卒業
薬局薬剤師としてAGAや壮年期脱毛症、円形脱毛症の医薬品調剤や服薬相談を多数経験
薄毛の悩みを解決できる医学薬学知識を啓蒙することで、患者さんのより良い人生に貢献したい
と思っております。
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抜毛症とは
抜毛症は「抜毛癖」や「トリコチロマニア」とも呼ばれる病気の一種です。
ここでは以下の2点について解説します。
- 抜毛症の症状の特徴
- 抜毛症になりやすい人
抜毛症の症状の特徴
抜毛症は自分の髪の毛や体毛を、自分で繰り返し引き抜く精神障害の一種です。
引き抜くのは髪の毛だけでなく、まつげや眉毛、ヒゲ、陰部や手足の毛などあらゆる体毛に及ぶこともあります。
AGA(男性型脱毛症)や円形脱毛症などとは異なり、自然に髪の毛が抜け落ちるのではありません。
自分で髪の毛や体毛などを繰り返し抜いてしまう点が抜毛症の特徴です。
「自分で髪の毛や体毛を引き抜く」といっても、眉毛を整えたり鼻毛を切ったりするような美容目的があるわけではありません。
気が付いたら髪の毛や体毛を引き抜いている場合もあれば、緊張感や不安感を覚えたときに抜毛行為に及ぶ場合もあります。
抜毛症は人口のおよそ1〜2%に見られ、それほど珍しい病気という訳ではありません。
命に関わる病気とはいえませんが、毛髪を繰り返し引き抜いた場合、薄毛になって外出が困難となるケースもあるため、早期の改善が求められます。
抜毛症になりやすい人
抜毛症になりやすい代表的な人は女性です。
抜毛症の成人患者の約90%は女性です。
出典:MSDマニュアル
抜毛症になりやすい人としては、学童期の子どもや思春期前後の青少年※も挙げられます。
また、MSDマニュアルでも次のようなデータがあります。
抜毛症は思春期の直前または直後に始まるのが典型的です。
出典:MSDマニュアル
一方で、成人男性が抜毛症を発症するケースも少なくありません。
したがって、抜毛症に対する理解をさらに深める必要があるでしょう。
抜毛症の原因については、次の章で詳しく紹介します。
※参考:小林太刀夫監修 『最新家庭の医学』 第12次改訂版
抜毛症になる原因
抜毛症の原因はよく分かっていません。
ただ、次のような理由で発症しやすくなると考えられています。
- 精神的なストレス
- 強迫性障害
- ホルモンバランスの乱れ
それぞれについて解説します。
精神的なストレス
抜毛症の発症にはさまざまな要因が複雑に絡み合っており、原因を特定するのが困難なケースも少なくありません。
しかし、抜毛症を発症する児童や生徒の中には「ストレス状況に置かれていた」とされるケースもあるようです。
環境の変化などによるストレスは自分で処理できず、「髪を抜く」という行為で満たそうとすると考えられています。
自分でコントロールできない環境変化の代表例が引っ越しです。
多感な時期に引っ越しを繰り返すと、引っ越し先の環境で理不尽な扱いを受けてもじっと我慢するしかありません。
そのような自分でコントロールできない環境に置かれたときにストレスを緩和しようとして抜毛に至るのではないか、などと考えられています。
強迫性障害
抜毛症の原因として有力な説の一つが強迫性障害説です。
抜毛症は強迫症の一種です。
出典:MSDマニュアル
強迫性障害は、頭では「些細なことである」と理解していても、そのことが頭から離れなくなる不安障害の一種です。
たとえば、次のような行為が挙げられます。
- 汚れてもいないのに汚れていると思って手を何度も洗う
- 戸締りをしたはずなのに、何度も鍵がかかっているか確認してしまう、など
抜毛症に関しても同じことがいえます。
髪の毛を抜いても仕方がないと分かっていても、つい髪の毛を抜く衝動に襲われ抜いたあとに後悔する、といったことを繰り返すのです。
ホルモンバランスの乱れ
女性に抜毛症が多く見られるのは「ホルモンバランスに変化が起こるからではないか」と考えられることもあります。
ホルモンバランスが大きく乱れる時期には不安やイライラを感じることも多く、それが抜毛行為につながるのではないか、という説もあるのです。
抜毛症の対策と治療方法
抜毛症の対策と治療方法は以下のとおりです。
- 認知行動療法
- 病院での相談
- 投薬治療
それぞれについて解説します。
認知行動療法
抜毛症はAGA(男性型脱毛症)や円形脱毛症などと異なり、精神障害の一種です。
そのため、その他の脱毛症とは違った治療法が必要となります。
抜毛症を発症した場合、認知行動療法をおこなうのが一般的です。
認知行動療法は、簡単にいうと精神的なストレスを緩和する治療法を意味します。
抜毛症の原因はまだよく分かっていないことも多いのですが、上述したとおり「ストレスが抜毛行為のきっかけとなるのではないか」と言われることも少なくありません。
認知行動療法によってストレスを取り除ければ、「抜毛行為をやめることにつながるのではないか」と期待されているのです。
認知行動療法の特徴は、個人の性格ではなく、考え方を変える点にあります。
抜毛行為に及んだ自分が悪いのだと自分を責めるのではなく、抜毛のきっかけとなった考え方を変えるのが目的です。
何らかのストレスを感じた段階で少し立ち止まり、そのストレスに対して柔軟に対処できるよう認知行動療法によって改善を図ります。
抜毛症に対しておこなわれる認知行動療法としては、習慣逆転法がよく知られています。
抜毛症に焦点を合わせた認知行動療法を行うことで、症状が軽減することもあります。最もよく用いられる認知行動療法は習慣逆転法です。この治療法では、対象者は次のことを教わります。
出典:MSDマニュアル
たとえば抜毛衝動を覚えたときに強く手を握りしめるなど、衝動に逆らう行為を意識するのが習慣逆転法の特徴です。
病院での相談
抜毛症の発症が疑われる場合、まずは病院で相談することが一番です。
原因が分からずに悶々としている間にも、抜毛症による薄毛の範囲は広がってしまいます。
精神的ストレスによる無意識の抜毛行為がみられる場合は、心療内科や精神科を受診するのが一般的です。
頭皮に炎症を起こしている場合や内出血が見られるような場合は、皮膚科も併せて受診する必要があるでしょう。
投薬治療
抜毛症の原因に関してはハッキリと分からないことが多いため、投薬治療は原則として認められていません。
ただし、抜毛症を引き起こす原因となるストレスに対して投薬治療をおこなうケースはあります。
ストレスを取り除くための治療薬としてよく知られているのが、抗不安薬や抗うつ薬などの向精神薬です。
抗不安薬には、毛症の原因となるストレスを緩和したり、セロトニンのバランスを調整して不安を解消したりする目的があります。
抗うつ薬には、脳内の神経伝達物質のバランスを調整し、自律神経のバランスやホルモンバランスを調整する働きが期待されています。
抜毛症の人との接し方のポイント
抜毛症は発症した本人が苦しいことはもちろんですが、児童や生徒が発症すると、親など周囲の人間も辛いものです。
抜毛症を発症した人と接する場合、次のような点に注意する必要があります。
- 否定をしない
- 受け入れる
- 治療を強制しない
それぞれについて解説します。
否定をしない
自分の子どもや知人、パートナーなどに抜毛症の疑いがある場合、抜毛行為を否定することは避けましょう。
本人は無意識に抜毛行為に及んでいることもあれば、やめたいと思ってもやめられないケースがあります。
「なんで毛を抜くの?」
「髪の毛がなくなったらどうするの?」
上記のような言葉は、かえって抜毛症の人を追い詰める結果となりかねません。
受け入れる
自分が抜毛症になった場合はもちろんのこと、周囲の人が抜毛症になった場合、まずはその事実を受け入れることが重要です。
特に発症者が子どもの場合は、周囲の人間が優しく接し、子ども自身に負担のない範囲で医療機関などの受診を誘導するのがおすすめです。
治療を強制しない
自分の周囲の人が抜毛症になった場合、無理に治療を強制することは避けましょう。
抜毛症の原因に関してはハッキリとしたことが分かっていませんが、ストレスによって抜毛症の発症リスクを高めると言われています。
治療を強制すること自体もストレスとなり、かえって抜毛症の回復を遅らせる可能性があります。
本人に治療の意志がない場合は、話を聞きながらゆっくりと気持ちの変化を待つようにしましょう。
まとめ
抜毛症についてまとめます。
- 抜毛症はトリコチロマニアとも呼ばれる精神障害の一種
- 学童期の児童や思春期前後の青少年に発症例が多く見られる
- 男女比はおよそ1:9と女性に多く見られる
- ハッキリとした原因は分からないが、ストレスによって発症リスクが増す
- 治療法としては認知行動療法や投薬治療がおこなわれる
- 本人のストレス状態を改善することが重要である
抜毛症は頭皮自体の病気ではないため、抜毛癖が治まれば髪の毛はまた生えてきます。
そのため、発症者を優しく見守ることが重要です。