【薬剤師監修】薄毛治療における再生医療とは?メカニズムや将来性について解説
再生医療は体内の細胞を培養し、身体の機能回復を目指す治療法です。
薄毛治療においても、再生医療を用いるクリニックが増えてきました。
ただ、大事なのはしっかりと内容を理解し、メリット・デメリットを把握することです。
そこで本記事では薬剤師監修のもと、再生医療における以下の点を解説します。
- 薄毛治療における再生医療の位置づけ
- 既存の治療法との違い
- 再生医療の現状と将来性
- 薄毛を再生医療で改善する際の注意点
記事の後半では薄毛治療を検討する際に「まずはなにからはじめればいいのか」を解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事の監修者
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北海道大学大学院卒業
薬局薬剤師としてAGAや壮年期脱毛症、円形脱毛症の医薬品調剤や服薬相談を多数経験
薄毛の悩みを解決できる医学薬学知識を啓蒙することで、患者さんのより良い人生に貢献したい
と思っております。
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薄毛治療における再生医療とは
始めに、薄毛治療における再生医療の位置づけに関して解説します。
- 幹細胞が発毛に働きかけるメカニズム
- そもそも再生医療とは
上記の2点について詳しく見ていきましょう。
幹細胞が発毛に働きかけるメカニズム
幹細胞が発毛に働きかけるメカニズムを簡単に説明すると、以下のとおりです。
- 休眠している毛包に対して幹細胞を注入する
- 脂肪前駆細胞が活性化する
- 毛包幹細胞が刺激される
- 休眠中の毛包が目覚め、ヘアサイクルが成長期へと移行する
髪は基本的に成長期→退行期→休止期→成長期というヘアサイクルを繰り返します。
しかし、薄毛になるとヘアサイクルに乱れが生じます。
正常なヘアサイクルは2年から5年周期(女性の場合は3年から6年周期)といわれていますが、薄毛になると極端に短くなるのです。
薄毛は休止期が訪れたあと、毛包が休眠してしまうことで進行すると考えられています。
この「毛包を目覚めさせて成長期に移行させるための鍵」となるのが幹細胞なのです。
幹細胞を維持するうえで大事なのが「脂肪前駆細胞」です。
今回の結果から、毛の幹細胞を維持するのに脂肪前駆細胞が必要であり、そのシグナルにはPDGFが関与している事が明らかになりました。
幹細胞を注入し脂肪前駆細胞の働きを活発にすれば、休眠中の毛包を目覚めさせ発毛につながるのではないかとされています。
これが薄毛治療における再生治療の基本です。
そもそも再生医療とは
再生医療とは人体の細胞を培養し、目的の組織や臓器に作り変える治療法のことです。
人為的に作り出した組織や臓器を、問題となる場所に移植して病気等の治療を目指します。
再生医療には次のようなメリットとデメリットがあります。
再生医療のメリット
- 従来の治療法では改善できなかった症状に対しても効果が期待できる
- 拒絶反応やアレルギー反応が起こりにくい
- すでにケガや病気の治療に取り入れられている
再生治療は「従来の治療法では改善できなかった症状に対しても効果が期待できる」として世界中から注目されています。
たとえば薄毛治療の場合、「進行を遅らせる」「発毛を促進する」といった治療方法はこれまでにもありました。
しかし、薄毛の原因となる部分を修復し、進行を食い止めたうえで完治する治療法は2022年現在存在しません。
再生医療なら、このような「薄毛を完治できる」として期待されているのです。
実際に、薄毛ではないものの一部の治療に取り入れられています。
再生医療のデメリット
- 従来の治療法よりも高額
- 治療を受けられる施設が少ない
- 法律上の高いハードルがある
- ES細胞やips細胞の場合はガン化する可能性がある
再生医療は注目を集める一方で、研究段階である点は否定できません。
…一方、新しい医療であることから、安全性を確保しつつ迅速に提供する必要があります。
したがって、2022年9月現在、従来の治療法よりも高額になったり治療を受けられる施設が少なかったりするというデメリットがあります。
ガン化のリスクも指摘されていますが、効果と同じく研究段階です。
ただし、ガン化のリスクを「取り除ける」といった研究報告もあるため、デメリットばかりを信じ込みすぎないようにしましょう。
既存の薄毛治療との違い
薄毛を改善する場合、内服薬や外用薬を基本として、メソセラピー(成長因子注入療法)や、自毛植毛をおこなうのが一般的です。
再生医療がそのような治療法と異なる点は以下のとおりです。
- 高い効果が期待できる
- 副作用のリスクが低い
- アフターケアの頻度が少ない
それぞれについて解説します。
高い効果が期待できる
再生医療は既存の薄毛治療と比べた場合、高い発毛効果が期待できると考えられています。
休眠状態に入った毛包そのものを活性化させて、発毛につなげる治療法だからです。
AGA治療に用いられる治療薬は、症状を完治させるものではありません。
たとえば、フィナステリドやデュタステリドは5αリダクターゼの働きを阻害し、AGAの進行を食い止めるものです。
また、ミノキシジルは血管を拡張し、髪の成長と発毛を促します。
再生治療は毛包自体を生まれ変わらせることができるため、高い効果が期待できるのです。
現状のAGA治療に関しては下の記事をご覧ください。
副作用のリスクが低い
フィナステリドやデュタステリドには、性欲の減退などの副作用が報じられています。
ミノキシジルは肌質に合わなかった場合、頭皮のかゆみや赤みを引き起こす可能性があります。
再生医療の場合、自分の細胞を利用するため、副作用や拒絶反応の心配がほとんどありません。
したがって、誰でも安全に薄毛治療を続けられる可能性があるのです。
ただ、既存の薄毛治療も「副作用のリスクが高い」というわけではないので安心してください。
詳しくは下の記事で解説しています。
アフターケアの頻度が少ない
再生医療は既存の薄毛治療と比べた場合、アフターケアのためにクリニックへ通う頻度が少なくて済む点も特徴です。
再生医療に用いられる成熟脂肪細胞の寿命は3年から10年といわれているからです。
従来の治療薬は完治を目指すためではないため、一度治療を続けると、常に付き合っていかなければなりません。
そのため、定期的にクリニックを受診して治療薬を手に入れなければならないのです。
再生医療は3〜10年のスパンで成熟脂肪細胞を補充するだけなので、クリニックを受診する手間がほとんどかからなくなるのです。
再生医療の現状と今後の将来性
再生医療は人体の細胞を利用した画期的な治療法であり、各医療分野での研究が活発におこなわれています。
ここではそんな再生医療の現状と今後の将来性について解説します。
再生医療の市場規模
再生医療の市場規模は、経済産業省が算出した再生医療周辺産業の将来市場規模予測によると、2015年(平成27年)の段階でおよそ170億円でした。
5年後の2020年(令和2年)には、市場規模がおよそ950億円と5倍以上に拡大しています。
2030年までにおよそ5,500億円、2050年にはおよそ1.3兆円にまで成長するのではないかと予測されているのです。
とくに、新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)は「毛根が死滅した」という報告もあります。
再生医療は新型コロナウイルス等の症状で死滅してしまった毛根を「再生できる可能性がある」として、現在、さらに注目が高まっているのです。
参考:経済産業省|再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業 複数課題プログラムの概要
再生医療の種類と問題点
再生医療にはさまざまな種類と、種類ごとの問題点があります。
成体幹細胞 | ips細胞 | ES細胞 | |
採取法 | 自分の脂肪細胞から採取する | 細胞を培養して人工的に作られる | 胚から人工的に作られる |
特徴 | 特定の機能を持つ細胞に変化する | あらゆる細胞に分化する | あらゆる細胞に分化する |
由来 | 自分の細胞 | 自分もしくは他人の細胞 | 他人の細胞 |
拒絶反応の可能性 | ほとんどない | あるが低い | ある |
問題点 | 特になし | ガン化する可能性がある | ガン化する可能性
倫理上の問題点 |
成体幹細胞は自分の脂肪細胞を利用するため、拒絶反応のリスクがほとんどなく、倫理上の問題点もありません。
ただ、特定の機能を持つ細胞にしか変化しないのがデメリットです。
ips(人工多能性幹細胞)細胞は細胞を培養して人工的に作られるため、あらゆる細胞に分化できます。
ただし、わずかながら拒絶反応のリスクがあるほか、ガン化する可能性も示唆されています。
ES細胞(胚性幹細胞)は他人の細胞からも作れる点がメリットです。
一方で、その他の再生医療に比べ、ガン化のリスクが高くなるとされています。
再生医療を普及させるための条件
再生医療はこれからの期待がますます高まる治療法です。
ただし、再生医療が普及するためには、次のような条件が必要であると考えられています。
- 培養できる細胞の量を安定化させる
- コストを下げる
- 技術者を育成する
逆に考えると、上記の条件をクリアできるようになれば、再生治療はより一般的な治療方法として確立されるでしょう。
薄毛治療における再生医療によくある質問
ここでは、薄毛治療における再生医療によくある下記2つの質問に答えます。
- ミノキシジルやフィナステリドと併用できる?
- 効果が出るまでどれくらいの期間がかかる?
ミノキシジルやフィナステリドと併用できる?
薄毛を改善する目的で再生医療をおこなう場合、ミノキシジルやフィナステリドといった既存の治療を並行しておこなうことは「可能である」といわれています。
治療法 | 期待できる効果 |
ミノキシジル外用薬 | 血管拡張・血行促進・毛母細胞の死滅を抑制 |
フィナステリド内服薬 | 抜け毛の原因となるサイトカインの生成を抑制 |
再生医療 | 休眠中の毛包を活性化させ発毛促進 |
ミノキシジルとフィナステリドとでは作用機序が異なるため、AGA治療においては両者が併用されることも珍しくありません。
むしろ、併用することで高い治療効果が期待できます。
再生医療も両剤とは発毛に対するアプローチが異なるため、既存の薄毛治療と平行しても「問題ない」とされているわけです。
効果が出るまでどれくらいの期間がかかる?
再生医療の効果が出るまでには個人差があります。
通常は6回程度の治療(4ヶ月半〜6ヶ月)で発毛効果を実感される方が多いとされています。
このあたりは通常のAGA治療とあまり変わりません。
内服薬・外用薬ともに、治療効果が現れるのは「半年程度」とされています。
詳しくは下の記事をご覧ください。
薄毛治療における再生医療に関する注意点
薄毛を改善する目的で再生医療をおこなう場合、次のような点について知っておくことが重要です。
- 現時点ではメジャーな方法としては確立されていない
- 治療費用が高価である
- 他の対策が有効な例も多い
それぞれについて詳しく解説します。
現時点ではメジャーな方法としては確立されていない
再生医療は今後ますます注目される医療分野です。
ただし、薄毛治療に関してはまだまだ実施例が多くありません。
再生医療に関しての研究を続けている現場でも、細胞を培養する技術者や品質をチェックする担当者が圧倒的に不足しています。
薄毛治療における再生医療がメジャーになるには、もう少し時間がかかると言えるでしょう。
治療費用が高価である
薄毛の再生医療は、多くの場合、数百万円程度の治療費用がかかってしまいます。
また、クリニックでは数回の施術や定期的なメンテナンスが必要です。
ただ、幹細胞培養上精液の使用量や施術の回数によっては、自毛植毛とそれほど費用が変わりません。
実際の治療を受ける前に、十分な説明を受けるよう心がけましょう。
自毛植毛のコスト等は下の記事でまとめています。
他の対策が有効な例も多い
再生医療に関しては、命に係わる病気やケガの治療目的で研究が進められています。
したがって、薄毛の改善についての研究は現在のところ活発とは言えません。
薄毛治療を考える場合、いきなり再生医療を検討するのではなく、まずはミノキシジルの外用からスタートするのが一般的です。
ミノキシジルの外用は「AGAガイドライン」においてもっとも推奨されている治療方法の一つです。
たった3,000円ではじめられるミノキシジル外用薬はこちらをご覧ください。
まとめ
薄毛と再生医療についてまとめます。
- 再生医療は体内の細胞を利用した最先端医療の一種
- 薄毛の改善には脂肪細胞を利用するのが一般的
- 既存の薄毛治療よりも高い効果が期待できる
- 治療費が高額になる傾向もある
- 薄毛分野における再生医療は今後のさらなる研究を待つ必要がある
再生医療は今後さらなる市場規模の拡大が見込まれており、薄毛の分野においても期待される治療法となっています。
ただ、現段階では確立された治療法ではありませんし、治療費が高額になるといったデメリットもあります。
今後の展開に注目しつつ、まずはミノキシジルの外用からはじめましょう。